「社会的養護の施設」という言葉を耳にしたことはありますか?
社会的養護とは、さまざまな事情により保護者に代わって「社会」が、子どもを守り育てることです。
その大切な使命を担う施設の職員確保と定着を支援するNPO法人チャイボラの代表 大山さんにお話を伺いました。
「社会的養護の施設」ってどんな所?
子育てや子どもへの教育は、それぞれの保護者の判断に任せています。一方で、行政機関が判断し支援をすることがあります。その支援を行う現場が「社会的養護の施設」です。令和2年3月末時点の施設総数は1,408か所、児童総数は36,158人。各施設の詳細は、厚生労働省のサイト(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/syakaiteki_yougo/01.html)に掲載されています。
最近の急速な共働きの増加や育児不安の訴えの増加など、新しい形で社会における養育の必要性が高まっています。虐待の相談件数は増加していて、家庭への集中的な養育支援と施設の専門的なケアの必要性が増しています。
チャイボラの概要
名 称:特定非営利活動法人 チャイボラ
所在地:東京都港区赤坂
設 立:2018年6月設立
理事長:大山 遥
月額寄付会員:92名(2021年12月現在)
ボランティアスタッフ:延べ25名以上(2021年12月現在)
支援団体・企業:15社(2021年12月現在)
ホームページURL:https://chaibora.org/
チャイボラを通じて出来る支援
■1000円⇒50名の学生を施設見学会に招待できます
■3000円⇒450名の学生に「社会的養護」に関する講義ができます
■5000円⇒3000名に「社会的養護」の正しい情報を届けることができます
「欲しいのはモノではなくヒト」。施設の現状を伺いました。
〈聞き手=CBJ 井ノ瀬里佳〉
施設ではどのような方がお仕事をされていますか?
子どもたちが、安心して当たり前の生活を送れるように色んな資格を持った職員が働いています。保育士や栄養士、心理士や医療関係者など、職員は子どもたちに寄り添って愛情をもって接しています。
施設は「暗くて」「怖くて」「キツそう」と思っている方が多い。でも施設は、特別な場所ではないんです。毎日、他の子と同じように学校に行き、クラブ活動や習い事をしたり友人と遊んでいます。栄養バランスに気遣ったご飯を食べ、宿題やゲームをして眠る。子どもたちが日々、安心して過ごすことが出来る場所です。
3年後に全国の施設に支援を展開したい
チャイボラの”目指す未来を教えてください。
全国すべての「社会的養護の施設」のうち7割をサポートしたい。いまは、東京都内にある施設の約9割(他県のサポート施設も含めると全体の約1割)にチャイボラの支援が届いています。蓄積されたノウハウを全国に展開していきたいと思っています。
施設が抱える課題はなんでしょうか?
とにかく人手が足りない。
以前、子ども関係や福祉領域への就職を検討している学生158名にヒアリングしました。その中には社会的養護の施設に関心を持っている学生はいました。でも、インターネットで情報を集めることが難しく就職先の選択肢に入ってこない。
正しく情報を伝えること、ここをチャイボラが力になれると思っています。施設が必要としている人材と施設に興味のある人がちゃんと「つながる」ことが出来れば、人手不足はだいぶ解消できると思っています。
一刻も早く、困っている子ども達のために何かしたかった
チャイボラを立ち上げた、その原動力はどこから来ているのでしょうか?
父が家で塾を経営していたんです。いろんな家庭環境の子どもたちが通っていました。発達障害ある子だったり、家に帰ってもお父さん、お母さんいない子だったり、貧困家庭の子だったりとか。それが影響しているのかは分かりませんが、子どもとお母さんが、少しでも温かく楽しく過ごすことが出来るように、「こどもチャレンジ」の仕事に携わっていました。子育てとか親子関係とか、自分が少しでもプラスの影響を与えられればと思って。
でもある日、そういう状況ではない環境に置かれている子どもたちがいることを知ってしまった。その瞬間に「自分は、何をやってるんだろう。」と、まったく迷いはなかったです。
そのまま、会社を辞め保育士の専門学校に入りました。最初は、保育士になって施設の職員として働くつもりでした。
NPO法人を立ち上げることに迷いはありませんでしたか?
もともとは自分自身が、いち施設職員になるつもりで退職し、保育士の専門学校に入ったんですよね。なんですが、保育士の専門学校に通う方たちのなかに、施設に関心を持っている人が多くいる。でも施設につながらない現状を目の当たりにして活動を始めました。
はじめたころもNPO法人を立ち上げるまでは考えていなかったのですが、活動がどんどん広がっていくなかで、自分ひとりが頑張るよりも「つなぐ活動」によってインパクトが大きくなる、と思ったんです。
法人の運営もしながら、児童養護施設の職員として働いていると伺いました。子どもたちはいろんな事情で入所しているかと思います。とても大変な現場かと思います。
なによりも子ども達が可愛いんです。
大人は、その仕事辞めたいって思ったら辞められるけど、子どもは、その施設での暮らしをやめるって言ってやめられないし、施設に居たくないから出ていきますなんて出来ない。
だから、辞めるときはよっぽどポジティブで、その子たちのためを思って新しい事に何かチャレンジする時です。
施設に入所する理由の約6割が虐待だと、厚生労働省のホームページで見ました。
私は今、幼児ユニットで働いているのですが、宿直の際に「ママに会いたい」と泣いて起きてくることもあります。横でトントンしていたら私の手を握ってきて。しばらくして眠りにつく。小さい体でいろいろな想いを抱えて頑張って生きているんです。
虐待された子どもたちには、親子関係が悪い訳ではないケースも多い。母親が病気とか、親自身も虐待家庭で育ったとか、貧困とかで、結果そういう状況になってしまった。誰もが完璧に子育て出来ることはなくて、何かがうまくいかなかったその結果なんです。
私も子どもが2人いますが、虐待って紙一重だと思っています。子どもを育てることは、体力的にも精神的にも本当に大変。完璧に子育てしたいと願う人ほど、つらくなってしまう。その時に相談できる人、手助けしてくれる人がいないと、追い詰められてしまいます。
例えば、旦那さんが居なくて子供3人を育てながら夜も仕事に出ている。子どもが母親を探して家を出てしまったら、子どもが施設に保護されることもあります。虐待だと認定された保護者イコール「悪」ではないと思っています。
正しい情報発信が私たちの使命
私たちが持つ「施設のイメージ」と「実際の様子」に違いがあります。施設が社会から孤立しているように思います。
そうですね。昔に比べたら開けた施設がだいぶ増えたんだと思います。ですが、まだまだ閉鎖的と言われる施設もあります。そうなると、地域からも理解や支援を得にくくなってしまう。
施設では、いろんなバックグラウンドも持っている子たちが生活しています。そういう子たちを、地域が守り育てていくことが大切だと思っています。
施設も建て替えが進んでいます。職員の働き方改革もすごく進んでいます。産休育休制度の導入や長期休暇を取ることもできる施設も増えてきています。
地域によっても施設の事情は変わりますか?
東京や大阪のような都市は、入所人数も本当に多く、職員が常に不足している施設が少なくありません。でもそれ以外の地域は事情が異なります。これから、各施設に直接訪れ、魅力や課題を見つけ、情報発信をサポートしていきたいと思っています。
施設で働きたいと思っている方々に何を伝えたいですか?
どんな環境で生き抜いてきた子に対しても施設にいる間に、「あなたはかけがえのない存在」であることを言葉と行動で伝え続ける。生まれてきて本当に良かった、と思ってもらえるような日々を過ごしてもらう。ちょっとした触れ合いだったり、会話だったり、その積み重ねがとても大事なんです。喜びや悲しみを共有し、テレビを見て一緒に笑ったり、掃除をしていないと怒ったり、喧嘩もする。
そうした「大切にされていると思える」経験の積み重ねが、その子の自己肯定感を育むことに繋がります。そして、施設を出たあとも誰かのために頑張りたいと思えたり、ときには人に頼ったりする力に繋がっていくと思っています。
私たち職員は、そのことを理解して子どもたちと真剣に向き合っていく必要があります。
【編集後記】
ポジティブでエネルギッシュ!そして愛情に満ち溢れた方でした。とにかく子ども達が可愛い、と笑顔で話す様子が印象的でした。大山さんは、困難に立ち向かうべく「挑戦」しているのではなく、着実に「実現」させていく方なのだと思います。応援だけでなく、いつか連携することができれば嬉しいです。
社会的養護の施設情報や社会的養護に関する情報サイト「チャボナビ」
「施設への就職を検討してるので採用情報を集めたい」「施設に関心があるので見学してみたい」「施設でボランティアがしたい」等、社会的養護に関心のある方向けに情報を集め発信しています。
チャボナビURL:https://chabonavi.jp/
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