「キリンこども応援団」は、こども食堂やフリースクールによって、こども達が恐れずに挑戦する場づくりをしています。
こども食堂は、こどもが一人でも行ける無料または低額の食堂のこと。2012年に東京都大田区の「気まぐれ八百屋だんだん」が最初といわれています。はじめは何らかの事情で十分な食を取れないこどもや、一人で食事をする孤食のこどもたちに、健康的な食事を提供することが目的でした。いまでは、地域交流や食育の場など様々な機能を持ち社会にとって必要不可欠な施設になっています。
数字で見る「こども食堂」
こども食堂の箇所数:6,007箇所
「2021年全国箇所数調査及び第1回全国こども食堂 実態調査」 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ
もっとも箇所数が多いのは、東京都:747箇所、次いで大阪府:470箇所
※自治体等への届出を必要としない民間活動であるため実数ではない
こども食堂マップ ガッコム・むすびえ こども食堂マップ – 学区・校区にこども食堂はあるか地図でわかる (gaccom.jp)
認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ
不登校の現状
不登校は、取り巻く環境によっては、どの児童生徒にも起こり得るものとして捉え、不登校というだけで問題行動であると受け取られないよう配慮し、児童生徒の最善の利益を最優先に支援を行うことが重要である。
「フリースクール等の支援の在り方に関する調査研究 令和元年度研究報告書」 文部科学省
文部科学省の令和2年度の発表によると小中学生の不登校児童数は過去最多の196,127人となっている。
産経新聞 2022年6月24日
子どもが最初に学校を休むようになったきっかけ(小学校)上位7位
「不登校児童生徒の実態把握に関する調査報告書」 令和3年10月 文部科学省
・先生との関係(先生と合わなかった、先生が怖かった、体罰があったなど):41.8%
・身体の不調(学校に行こうとするとおなかが痛くなったなど):33.6%
・友達との関係(いやがらせやいじめがあった):29.7%
・友達との関係(上記以外):28.1%
・勉強が分からない(授業がおもしろくなかった、成績がよくなかった、テスト
の点がよくなかったなど):21.6%
・生活リズムの乱れ(朝起きられなかったなど):20.8
キリンこども応援団の概要
名 称:特定非営利活動法人キリンこども応援団
所在地:大阪府泉佐野市
設 立:2018年7月設立、2021年10月21日認証
代表者:水取 博隆
ボランティアスタッフ:延べ40名以上(2022年4月現在)
支援団体・企業:約50社(2022年3月現在)
私たちが団体を通じて出来る支援
■フリースクールの維持費(教材費や人件費、レクリエーション費)
■こども食堂の維持費(賃料や食材費、調理費)
■新たな居場所の設立支援(賃料や改修費)
すべてのこども達にエールを送るキリンこども応援団
〈聞き手=CBJ 井ノ瀬里佳〉
「キリン」には何か込められた思いがあるのでしょうか?
私たちの活動は、2018年7月、泉佐野市立佐野台小学校のPTAや地域の保護者が中心となって開設したこども食堂「キリンの家」からスタートしました。
当時の校長先生は「良いことは何でもやってみましょう」と言ってくださる方で、私たちの活動を後押ししてくださいました。その先生の身に着けている物のどこかに必ず「キリン」がプリントされていました。
「キリン」には、校長先生の意思や当時の保護者の方々の願いが込められています。
水取さんはいつ頃から携わっていたのでしょうか?
当初の立ち上げから携わっています。当時は貝塚市役所の職員で、「キリンの家」にはボランティアで参加していました。昨年12月末に市役所を退職し、今は運営に携わっています。
大きな転機かと思います。不安や怖さはありませんでしたか?
大学卒業後、地域貢献をしたいという思いでメーカーのコサルティング事業に携わっていました。それから真剣に地域に関わっていきたいと思い28歳で市役所職員になりました。地域の活性化の手段の一つとして公務員を選んだので、この事業に専念することは手段が変わっただけ。より目的に近づいたと思っています。
地域を支え、多様な出会いがある「こども食堂」
地域の活性化には、いろんなアプローチがあります。なぜ「こども食堂」だったのでしょうか?
「よさこい祭り」の実行委員を続けていて、地域の賑わいづくりにも携わってきて気づきがありました。地域活性化の根本は人材なんです。
こども食堂やフリースクール含めて、こども達の居場所を創り、挑戦する機会を創り、こども達が育っていくことが本当の意味で地域の活力の源になると思っています。
これまで、こども達と接してきて、可能性とか、なにかに挑戦した後の成長の伸びを見てきて僕自身もどんどんこの事業に引き込まれています。
僕たちや地域がこども達を応援し、こども達が自分でやりたいことに挑戦し活躍して、地域からまた応援してもらう。目指しているのは、この好循環を繰り返していくことです。
どのような居場所づくりをされているのでしょうか?学校でもなく家庭でもない。クラブ活動とも違う「キリンこども応援団」の役割はなんでしょうか?
こども食堂「キリンの家」とフリースクールの「キリンのとびら」で役割や機能は違いますが、自己肯定感を養ってもらうことを大切にしています。
こども達と接してきて思うのは、「出来ない」からスタートするこが多い。「失敗したくない」という気持ちが強いんです。でも「挑戦したくない」のではない。
「出来なくても良い、失敗しても良い、だから挑戦してみよう。」そうした環境を整えてあげることが居場所づくりだと思っています。その居場所で、仲間に出会い、信頼できる大人たちに出会って認めてもらって自己肯定感を高めていく。そして新たな挑戦をして欲しい。
こども食堂「キリンの家」で大切にされていることは何でしょうか?
いま150人ぐらいのこども達が来ていますが境遇は様々です。
食堂の利用は登録制ですが、小学校から高校生のこどもであれば誰でも登録できます。(現在は、感染症対策のため地域の小・中学生に利用を制限しています。)
こども食堂は貧困対策というイメージが強いですが、そういう色を出せば出すほど、本当に困っている家庭は来ることが出来なくなります。
大切にしてることは「キリンの家」に来て何かを与えてもらうのではなく、こども達が楽しく過ごしてもらうこと。だから地域のこども達なら誰でも来ることが出来る場所にしています。
でもやっぱりその中には本当に貧困で苦しいとか、親がいない、帰ってこないとかいろんなこがいます。そおのようなこども達には「包み込むような」支援を意識して行っています。
フリ―スクール「キリンのとびら」は、どのような場所ですか?
「包み込む」支援のキリンの家に対して、フリースクール キリンのとびらは「直接的」な支援です。こども自身と家庭に届く支援を行っています。月曜日から金曜日の10時~16時に学習支援や体験活動、アクティビティを行っています。
それぞれ役割、機能は違いますが「居場所」であることは変わりません。
こども達は、僕のことを「オッチャン」と呼んでくれる。腹の底から体感で、ここは安全な場所だと、自分を認めてくれる場所だと分かっているからこその呼び名だと思っています。
自己肯定感は一朝一夕では育たなくて、周りの大人や仲間に認めてもらい、あふれるほどの愛情をもらい、そのことを積み重ねて育まれていくものだと思います。
だからこそ地域にもっとこういう拠点が必要だと思っています。積み重ねていくためには地域との関りが欠かせません。
支援の選択肢を多くする、より早くつなげる
今後、力を入れて取り組みたいことは何ですか?
オンラインのフリースクールです。去年10月にフリースクール「キリンのとびら」立ち上げて、今は7人のこども達が通っています。
活動をとおして家から出ることが出来ないこどもの多さを実感しています。年齢を重ねるほどに誰かに会うことのハードルが上がってしまう。だから不登校の傾向があるなら、より早く幼い時から第三者に繋がることが大事やと思っています。学校は、どうしてもまず学校の中で解決しようとするので、第三者に繋げることが遅れてしまいます。
「キリンのとびら」の支援は、これまでの不登校支援となにが違うのでしょうか。
既存の支援にはスクールカウンセラーやソーシャルワーカー、教育支援センターや適応指導教室などがあります。でも誰がそのこどもに当てはまるのかは本当わからない。そういう支援の方たちではなく、保健室の先生や習い事の先生と色々です。だから選択肢が多い社会が絶対に必要だと思っています。
オンラインのフリースクールも選択肢のひとつ。「自分ならできる」という自己肯定感が高まれば、勉強はどこからでも追いつけると思っています。勉強よりもっと前の段階で満たされる場所が必要だと思っています。
オンラインのバーチャル空間を使い、最初は声や顔出せなくても徐々に声を出し、顔を出し、最終的にはリアルに繋がっていける。このステップをもっともっと細かく刻んであげないといけません。
学校の授業をするのが第一の目的ではなく、オンラインでそのこの居場所をつくります。
最近、こどもと社会の距離はすごく離れてしまっているように思います。相対的にこどもの人数が減っていて、守るべき対象であるからこそ大切にして距離を置いている。こどもが多かった時代はもっとワーッと気軽に大人や社会と関わっていたように思います
感染症の拡大で2か月ほど臨時休校になった時、卒業式がどうなるかも分からない状況でした。その時、こども達は「なんでやねん」じゃなくて、受け入れるんですよ。
「言ってもしょうがない」って気持ちなんです。
でも、もっともっと意見を出していいと思うんです。
こども達が社会を受け入れる姿勢しかなくて、意見や思いを発信するような姿勢がない。それが本当にもったいないと思っています。
誰一人取り残さない社会を目指して拠点を増やしたい
三年後に組織をこのようにしていきたいというビジョンを教えて下さい。
キリンの家では、こども達がいろんな事にチャレンジしています(※)。こどもカフェであったり、食育であったり。他の地域の方から、素晴らしい取り組みと言われます。
手前味噌ですけど、この地域のこども達は、キリンの家があることでいろんな形で社会との繋がりが出来ています。だからこそ拠点を増やしていきたい。一緒に活動する仲間を増やしていきたい。
こども達の居場所は多い方が良い。競合するような考え方は基本的にはないので、こういう場所を一緒に作っていく地域の人たちを増やしていきたい。社会インフラとして、こどもの居場所づくりに取り組んでいきたいと思っています。
※目的は食事提供ではなく、居場所づくり。子ども食堂から始まった大阪・泉佐野の「キリンの家」が目指すもの。 | 日本財団 (nippon-foundation.or.jp)
「子ども第三の居場所2022年の寄付活用レポート」日本財団
〈編集後記〉
こども達を想い、地域を想い、未来をより良くするため行動する。挑戦する姿勢がとても格好よくて素敵な方でした。こども達も水取さんのその姿勢を見て勇気をもらっているのだと思います。対面での取材は叶いませんでしたが、いつか会える日を楽しみにしています。
フリースクール「キリンのとびら」の新たな挑戦
オンラインフリースクール「clulu クルル」
不登校のこども達が抱える「外に出る怖さ」「新しい場所に行く怖さ」を少しでも軽く、でも人との繋がりを少しずつ増やせる、いわば不登校とフリースクールの中間になる居場所です。
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