“フェアトレード”と聞いて何を想像しますか?「値段が高そう」「環境によさそう」さまざまなイメージがありますが、その定義や認証制度について理解し自信を持ってその製品を選べる人はどれくらいいるでしょう。
実は国際フェアトレード認証を得るためには、サプライチェーン全体でとても厳しい基準をクリアしなければならないのだそう。今回は、今年30周年を迎える認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン(以下、フェアトレード・ラベル・ジャパン)の中島さんに話を伺いました。
(画像提供:認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン)
■「経済・環境・社会」全て揃わなければ取得できない
まずはじめに、フェアトレード・ラベル・ジャパンの役割について教えてください。
私たちは、ドイツに本部を置く「フェアトレード・インターナショナル」の構成メンバーとして、日本国内における認証・ライセンス事業および普及啓発事業を行っています。1993年に設立し、今年で30周年。児童労働や貧困の問題は、新型コロナウイルスの影響も受けて解決に向かうどころか悪化していると言われています。加えて、気候変動の影響もますます深刻です。その結果、主に開発途上国で生産者として働く人々に”しわ寄せ”が行ってしまう状況が続いています。
悪化してしまっているんですね…。そもそも国際フェアトレード認証とは、具体的にどのような制度なのでしょうか。
「原料生産」「輸出入」「卸」「製造」と、サプライチェーン上の各事業者が環境や人権に配慮しているか監査することで、安心・信頼してフェアトレード商品を購入することができる仕組みです。現在、世界6100社以上の企業が認証を取得しています。
“フェアトレード”とは、「公正・適正な価格で取引すること」を意味しますが、国際フェアトレード認証を受けるには経済面(適正価格の保証など)・環境面(環境への配慮)・社会面(人権への配慮など)の3つ領域で細かく定められた基準をクリアしている必要があります。それも、「サプライチェーン全体」が監査対象なので、例えば原料生産過程でクリアしたとしても、輸出入やその後の製造工程でクリアできなければ、最終製品はフェアトレード製品として認証を受けることはできないのです。
価格保証について、もっと詳しくお聞かせいただけますか?通常は市場の動向で原料の価格が決まると思うのですが。
カカオを例に挙げましょう。おっしゃる通り、通常の貿易では、市場の動向で取引価格は上下します。石油などと同様、必ずしも生産高とは関係のない投機の影響もあり、国際市場価格は激しく上下します。しかし国際フェアトレード認証における最低価格保証では、「一般市場がどんなに暴落しても、この値段を下回ってカカオを取引してはいけませんよ」というルールを設けているんです。生産者が環境に配慮したカカオを継続的に生産していくのに必要なコストをまかなえるよう、最低価格を定めています。取引価格に基準を定めている認証制度は、フェアトレードが唯一ではないかと思います。
適正価格の保証にくわえ、”プレミアム”という奨励金が支払われると聞いたことがあります。
そうですね。プレミアムは対象製品すべてに定められていて、生産者による組合がその使い道を自分たちで民主的に決めるというルールです。例えば生産効率を上げるために機材を購入するとか、生産者の生活の質を向上させるために病院を建てるとか、その地域の社会・環境開発のための資金として使うことができるのです。
■黒いラベルと白いラベルの違い
化粧品でフェアトレード認証を受けたい場合、一部分でも認証原材料を使っていればよいのですか?
化粧品に限らずですが、一般的に知られている黒い「国際フェアトレード認証ラベル」は、「当該製品の原材料のうち、できる限り多くの認証原材料を使用することで、生産者の利益を最大化させること」が目的となっているため、認証基準が設定されている対象産品は、原則100%フェアトレード認証原材料を使用しなければいけません。つまり、一部が認証原材料だからといって認証を受けられるわけではありません。また化粧品の場合、「全原材料中フェアトレード含有率が2%または5%以上でなければならない」という定めがあります。この基準は簡単ではないようで、日本の大手化粧品メーカーでの認証取得事例はまだ出ていません。
そうなんですか!難しすぎるからなのか、そもそも必要性を感じていないケースもあるのでしょうか…?
必要性を感じているかどうかは、サステナビリティへの意識や企業規模などにもよってさまざまかと思います。ただ、国際フェアトレード認証ラベルを目指すとなると、サプライチェーン全体を見直す必要があるので、必要性は感じていたとしてもハードルはかなり高いのでしょう。他にも要因はあるでしょうが、このような理由から、日本国内では、化粧品分野でのフェアトレード認証取得がなかなか進んでこなかったのだと推測できます。
ただ、厳しい基準が設けられているのは、それが地球規模で求められているから。現に、グローバルでは、このフェアトレードの考え方は多くの企業に取り入れられていて、化粧品の事例も多数出ています。「経済・環境・社会すべてにおいて持続可能なサプライチェーン」が一般的にならなければ、根本的な問題は解決されないと考えています。
それだけ根強く複雑な問題なんですよね。しかし、そうは言っても、企業の体力もさまざま。すべての原材料を一気にフェアトレードに切り替えるのは難しいとしても、少しずつ認証に近づいていける方法はありますか?
認証ラベルには実はもう1種類あります。白い「国際フェアトレード原料調達ラベル(FSI)」を見かけたことはありますか?前述の黒いラベルは「製品を認証する制度」で、この白いラベルは「法人単位で特定の原料にフォーカスしてフェアトレード調達を促進する制度」なんです。例えば「私たちの企業はカカオについてはフェアトレード調達にコミットしています」と宣言するもの。最終製品への認証カカオ使用割合を問うものではありませんが、法人としてコミットした特定原料については、複数年かけてフェアトレードの調達量を増やしていくことをコミットする制度です。
単一の原材料に留まらず、「まずはカカオ。次は砂糖…」など、ひとつずつフェアトレード認証原材料の調達を増やしていく方法もあります。
特定の原材料にフォーカスして取り組んでいける仕組みなんですね。そのラベルを目にした私たちも「この企業はフェアトレードの調達を増やそうと努力しているんだ」と認識することができますね。
国際フェアトレード原料調達ラベル(カカオの例)
■「意思を持って選択する」若者が増えています
ヨーロッパなどでは「私たちは児童労働を排除しています!」と謳っているメーカーを見かけたことがありますが、そういったPRを日本ではほぼ見たことがありません。メーカー側だけではなく、製品を選ぶ消費者の意識改革も必要なのではないか…と感じます。
中島さんは、今後どんな日本になってほしいと願っていますか?
端的に言えば、フェアトレードがもっと普及した世の中になってほしいですね。ここ15年ほど、法律面でも消費者の意識面でも、社会へのフェアトレードの浸透という点で先を行くヨーロッパを追いかけていて、いまだに追いつけていないんです。スーパーに行けば当たり前のようにフェアトレード製品が並んでいて、いつでもどこでも、誰でもそれを手に取りやすい社会にしたいです。
最終的に行き着くべきところは、認証マークなどなくても、全ての製品が人と環境に配慮して作られている状態。とにかくあらゆる”しわ寄せ”が生産者に行ってしまう今の状況を打破するために、まずはフェアトレードをもっと普及させたい…と思います。
フェアトレード製品は、どうしても値段が高いイメージがありますが、今後もっと普及して流通量が増えれば、価格も安定するのでしょうか?
スケールメリットは出てくると思いますね。消費者にとって手に取りやすい価格になれば、もっと流通量も増え、よりよい循環が生まれるのではないでしょうか。
そうなると、若者にとってもより身近になりそうですよね。フェアトレードや持続可能な製品選びについては、10代・20代の若い人たちにも伝えたいなと最近強く思います。
フェアトレード・ラベル・ジャパンでは常に大学生インターン数人が活動してくれているんです。最近はフェアトレード製品について、気負わずおしゃれにポップに発信してくれる若者が増えていて、とても嬉しいですね。「(生産者が)可哀想だから」ではなく、自分なりに学んで理解したうえで、つくりたい未来を想像して意思を持って選択する。そんな生き方をかっこいいと感じて胸を張ってフェアトレード製品を手に取る人がもっと増えると、世の中はきっと変わっていくと信じています。
インタビューを終えての感想
今回フェアトレードについてお話しを伺いたいと感じたきっかけは、海外の化粧品ラベルでフェアトレードマークを目にしたことがあるにも関わらず、日本の化粧品ではなかなか見る機会がなく、その理由を知るためにしっかりとフェアトレードについて学びたいと感じたことでした。お話を伺う中で、市場が変わるにはまず消費者の意識が変わる必要がある、と改めて感じました。日本ならではのクリーンビューティー概念を形成する上で、フェアトレードの考え方もしっかりと取り入れていきたいと思います。
取材・執筆:coco ライター・編集者
JICA、佐賀県ユニセフ協会、フリーのWEBライターなどを経て、2020年に株式会社PR TIMESへ入社。ビジネス系WEBメディアを2年半担当した後、家庭の都合により退職。現在はタイのバンコクにて広報PRのプロボノ活動中。
コメント